方臭いというんで、まだ後からも人が来るでがしょうが、まあ見ねえふりをしていておくんなせえ。
今井 小気味のいい奴だなあ。
喜造 冗談おっしゃちゃいけねえ。ま、ごめんねえ。
加多 おい、門前町から社へかけて奉行所、八州、又は代官所の役人らしい者は立廻っていないのだろうな?
喜造 へえ? いいえ、さあ、どうですか。
加多 そうか、よろしい、行け。(いわれて喜造、ブツブツ言いながら元来た方へ引返し歩きはじめる)
加多 ……(今井と顔を見合せ、刀を鞘に納め)アハハハ、ハハハ(今井も哄笑。七三の辺で二人の笑声でビックリして立止って振返る喜造。呆れて見詰めている。とまた出しぬけに付近の山を捜して走り廻っている人々の叫声が奥でおこる。喜造われに返って、揚幕の方へ振向こうとするトタンに、何の前ぶれもなしに揚幕から走り出して来る男。足拵え厳重、裸、手拭、頬被り、切り立ての白木綿の下帯腹巻、その上に三尺をグイと締めてそれにゴボー差しにした鉄拵え一本刀。脱いだ素袷で持ち重りのする寺箱と大胴巻をグルグル巻きに包んでこれを左わきに抱えこんでいる。この異様な風態の上に裸の右肩先に、返り血だろう、紅いものをつけてい
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