あやっぱり百姓の子だ、足を洗って何になるかといやあ、百姓になるのだ。ウム。……第二には、お恥ずかしい話だが、兄の田地を取戻すための二十両の金を拵えるためだ。あのとき利根の親方から恵んで貰つた一両の金で何か商売でもと色々にしたっけが、いまどき二年や三年が間に十両の金でも儲けられようという商売なんぞありはしねえ。ヌスットをしなきゃ、ピンコロで稼ぐ外に途あなかった。でやっとのことで二十両、どうにか拵えて、こうしてそれを持って帰る俺だが、くらやみ、こんなことをいえばお前ふき出すかも知れねえが、俺あもともとバクチは身顫いの出る程嫌いなのだ。
長五 本所から深川、方々のお邸の部屋々々へかけて壷を握らせりゃまず並ぶ者のねえというお前がバクチが嫌いだという。だが一度無職の飯を食った者がまた田の中へ這いずり廻ろうとしてもできる相談じゃなかろうぜ。それよりも、兄きも言ったムシャクシャ腹、世の中をハスッカイにシャシャリ歩いて、癪に障る奴等にツバぁ吐きかけながら渡るのが、分別だろうぜ。ご時世が変るだの何だのと方々でワイワイ騒いでこそいるが、どうせどっちに転んだとて所詮が、二本差した奴か物持ちの奴等の話だ。壷を
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