爺 (徳利と茶椀を持って来て縁台の上におき)これにおきますよ。盛りはタップリで。わしはこれで行きやすから。(奥へ引込む)
長五 糞でも喰え。オット、ありがてえ、さ、上げな。(仙太郎に酌をする。仙太黙ってグッと飲み長五に差す)すまねえ。
仙太 (酌をしてやって)いつもいう通り商人百姓、素人衆をもっと大事にしろ。それから、……身体を大切にしろ。
長五 ……俺あどうせ上州無宿くらやみの長五、あちこちの賭場の塵の中に、命を投出した男だ。兄きこそ、達者で暮してくれ。オット(グイグイ飲む)……しかしお前程の男を、惜しいなあ……。
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(二人シンミリしてしまって、永い間然って飲む。仙太はいい加減に茶椀を長五に渡してしまい、また急にはげしく聞えて来はじめたエジャナイカのどよめきに耳を傾けるようにして黙っている――間)
(六尺棒をかい込んだ番太、左より走り出て来て、奥の町の方へバタバタと駆け抜けようとし二人をヒョイと見てギックリ立止る……)
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番太 ……な、な、何だ、お前達は?
長五 ……(ジロジロ見て暫く黙っていた後で)……何だって? ハハ、だいぶ騒々しいね
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