それに何でも噂では百姓一揆が此処を通るんだとかで、あれやこれや、ボンヤリ店を開いていて傍杖でも喰うた日にはたまりましねしね……[#「たまりましねしね……」は底本では「たまりましてね……」]。
仙太 百姓一揆がね、フーム……。
長五 詰らねえトバッチリを喰うもんだ。じゃ冷やでいいから持って来てくんな。
爺 それも、どうか勘弁して貰いてえで。わしあ、はあ、此処をたたんで、内へじき帰りますで。
長五 馬鹿を言うねえ。街道に向いて店を張っての渡世をしていりゃ半分は通行人の店だ。持って来な。只飲もうというんじゃ無え。来いといったら持って来ねえか!
仙太 長五、てめえまた、素人衆に喧嘩売る気か? 爺さん、こんな男だ、悪気はねえ。これで(と小粒を爺に渡して)冷やでいい、一升だけ徳利のままと、茶椀を一つ、それだけソックリ譲って貰おう。そして俺らはこの縁台の端を貸して貰って勝手に休まして貰うから、お前さんは帰るなりと何なりとしておくんなせえ。
爺 へい、へえ、こんなに沢山いただいちゃ……。じゃまあ。おっしゃる通りに……(内に入る)
長五 現金な野郎だ。珍しいなあ、お前飲むのか、兄き?
仙太 お別れだ。

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