いうのだから、米も金もなくなって食うに困った連中のやることだ。ウンとやるがいいや。ついでに知行取りの士屋敷や奉行所、公方様の米倉あたりまで押せば[#「押せば」は底本では「伸せば」]いいに。
仙太 こらえ切れなくなった町人百姓の尾も頭もねえ八つ当りだ、どう転んだとてそこまでは行きはしねえ。情けねえ話だ。御大老が斬られるわ、あっちでもこっちでも強盗火つけ、押しがりゆすり、人殺し辻斬りと、全体末はどうなるのかなあ?
長五 そいつは八卦見にでも聞くがいいや。世間の抜道を斜《はす》に歩く俺のような渡世人にゃ、この世の中がどうなろうと知ったことかい。ホイ、酒だ。おい、ごめんねえよ! いねえのか、誰も? おい!
爺の声 はいはい(出てくる)はい、何ぞ御用で?
長五 茶店の者が人が来たのに何の用もないもんだぜ。ハハ、早いとこ、一本つけてくんなせえ。
爺 それはもう何でがすけど、今日はもうご勘弁なせまし、へい。
長五 何か、もう売切れたのかい?
爺 いえ、もうこれぎりで店をしまおうと火を落してしめえましたので。なんしろ、お聞きの通りのエジャナイカ騒ぎで本宿辺は散々にぶちこわしが始まっていると申しますし、
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