きり。よっ! (サイを投上げ受けて掌を開き)筑波と出たよ。
仙太 相変らずだなあ。だが長五、先刻もいう通り、どこへ行くにしても、北条の喜平の息のかかっている親方衆の所で草鞋を脱ぐのだけはよしにしてくんなよ。こいつはいままでの兄弟分のよしみに免じて俺の頼みを聞いてくれ。
長五 合点だ。筑波にゃ仏の滝次郎、いい顔の貸元で、つき合いの日は浅えが妙な縁で江戸で呑み分けの兄き分がいるから、どうせそこに転げ込むんだ。だが、このままあっけなく別れるというのも何だから、その辺で一杯どうだろう。
仙太 そうよなあ、一度別れりゃまたいつといってあえねえ。お前を相手じゃ意地も張れめえ。(二人連立って本舞台へ。――茶店の前へ出て)おお丁度おあつらえ向きだ。ごめんよ。
長五 おい、休まして貰うぜ。なんだ、誰もいねえのか。おい! (いっているところへ、本宿の方の騒音急に激しくなり、エジャナイカの声々が潮のように起る)何だありゃ?
仙太 フフン、こんな所にも流行って来たのか。江戸を出る時も千住あたりでエジャナイカ、エジャナイカであちこち叩きこわしが始まっていたが。
長五 何でも米屋と質屋が一番先きに叩きこわされると
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