しくじりましたねえ。
加多 ムッ、……無用だっ!
甚伍 あんたあ、抜く気か? それもよかろう、斬られてもよい。だが、あんた方あ水戸の方へ行っちゃいけねえ。……行っちゃいけねえ。穽に落ちるようなもんだ。宍戸様の手と合して水戸城を落して立籠る積りだろうが、それが穽だ。まだ考えが青いや。
加多 何をっ!
甚伍 ま、ま、しまいまで聞いてからでも遅くねえ。目先の見えねえにも程がある。江戸じゃこの騒動を口実にして、水戸藩の持っている幕府での勢力と、それから、勤王派とを、両方とも一気に叩きつぶして邪魔を除こうとしているのが、わからねえのか? 落し穴だ。小石川のお上《かみ》を動かし、佐藤、朝比奈などという人を幕府がけしかけたのも、お前さん方は知らねえのか? 毒で毒を制しようというのだ。江戸が衰えたとはいいながら、まだそれだけの役者はいますぜ。水戸藩あたりの田舎千両役者たあ、打つ狂言のケタが違う。そんなことを少しも考えねえで、水戸へ駆け出して行って、あとはどうなるんだ? 田沼の手が、やれば手易くできるのを、一気にこの近まわりで天狗党を蹴散らそうとしねえのも、ジワジワとお前さん方を水戸へ押し詰めて、そこで
前へ
次へ
全260ページ中205ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング