少し段違いらしく、井上は押され気味である。双方無言、呼吸をはかっている。――間。タタッとくぐり戸から走り戻って来る甚伍左)
甚伍 誰もいねえ、変な奴を見たように思ったが……(言いながらヒョイと座敷の方を見てびっくりする)あ、何をなさるんだ、お二人! ま、待ってくだせえ! 引いたっ! (縁側へ飛上る)引いたっ! 話せばわかるんだ。短気なことを!
吉村 此奴、初めからその気でいたのだ。危い、退って見ておれっ!
井上 ウッ!(ツツと進む)甚伍、貴様の命も貰ったぞ!
甚伍 チッ、チッ、チッ! 人の気も知らねえ! しかし私を斬るというなら斬られようから吉村先生はいけねえっ! 水戸の藩論をまとめるクサビになっている人を、殺そうてえのかっ! 後で、後で、悔んでも追っつけめいぜ、引いたっ! いけねえ、こ、こ、こ、兵藤さん、兵藤さん! (いっている間も吉村と井上の気息は烈しくなっている。吉村一、二歩出る、井上それだけ退る。吉村、刀を頭上に構えたまま、少しユラユラ揺りつつ、右へ少し廻り込む。井上の方は壁に背をつけるくらいにして、少し呼吸が乱れ、眼が血走って来る。甚伍左は隙があれば二人の刀の間に割って入ろう
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