としているが、そのスキがないらしい。間。くぐり戸から兵藤が戻って来る)
兵藤 甚伍、戻っていたのか。怪しい者は見えぬ。何をしているのだ、甚伍? (くぐり戸の辺からは、植込に隔てられて甚伍左の姿だけしか見えないので、変に思いながら、歩いて来て、座敷の斬合いを見て)おお!
甚伍 早く止めて下せえ、兵藤さん、危ねえ!
兵藤 吉村氏、手を引かれ、拙者が相手になる、慮外なっ! 背後より斬りつけるとは……。
吉村 そうでない! 初めより目あては私だ。ウッ!
井上 オウー(こうなれば敵しないと見て取って、構えながら塀外へ向って叫ぶ)仙太、仙太郎! 出てくれっ! 何をしているのだっ! 仙太郎!
兵藤 なにっ! (とまだ座敷にあがっていなかった足を翻して、振返ってくぐり戸の方を睨んでいたが、バッと走って行き、チョイと外の気配に耳を澄ましてから、左手で刀の鯉口を切って、身構えながら、くぐり戸をパッと開ける。トタンに、それまで外からくぐり戸に寄りかかってでもいたのか、ハズミを食ってアレッ! と叫んで、転げ込んでくる深川芸者のお蔦。兵藤は事の意外さに呆れて一瞬見下ろしていたが、やがて猛然とお蔦の髷を左手で鷲掴
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