貴公、薩州あたりの者と|度々《どど》往復されるのは、何のためだ? ハハ、これも大義のためか。大義が泣くぞ。第一このように、ここら辺で薩州屋敷の者の隠し座敷などにウロウロ出入してシッポを出さぬようにされたがよかろう。
兵藤 何をいうかっ! 今日のことは甚伍左の口添えもあり、吉村氏もその気があるところへ第一貴公から申入れがあったから、不肖兵藤大きくは邦家のために取り計ったことだ! 鷲尾もそれを望んでいる。誰も彼もが水戸者のように尻の穴が小さいと思うと当てがはずれるぞ!
井上 よし! 問答無益だ! 立てっ!
兵藤 よろしい。馬鹿め!
甚伍 ま、お二方とも、鎮まりなすって。ここで変なことが起れば、せっかくの鷲尾さんの顔をつぶし、引いてはようやくまとまりかけた薩摩の具合を損ねましよう。戸外《そと》はすぐ通りだし、どんなことになっても損をするなあ、お国だ。まあまあ。
井上 甚伍、えらいことをいうなあ? まとまりかけた薩州だと? フン。立廻るのもよい加減にしておけよ……。何を馬鹿な、拙者ここへ出向いてくるからは初手から覚悟はしているのだ。
吉村 おい、井上氏。
井上 何です?
吉村 まあ、そうシャチ
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