たいか。それなればいおう。いい抜けは無用だぞ、よいか貴藩のやり口が正々堂々の道を踏んでいるものなれば、第一に拙藩有志において常野《じょうや》の間に事を挙ぐれば貴藩においても相呼応して事を挙げ幕軍をして前後両難に陥らせようとの約、および第二にいよいよとなれば軍資武器その他のことは貴藩において考慮手配しようとの口約、これはどうなったのだ?
兵藤 そ、そ、それをまたいうか! 先程も……。(いいつづけるが、無駄と知り呆れたような顔をしてフームと唸っている)
井上 何度でも申すぞ! これについて明瞭な返答をしてから、いくらでも小綺麗なことを申されよ。大義とやらの話もその後で聞く。
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(間。――井上と兵藤、マジマジと睨み合っている)
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吉村 (甚伍左に)おい、酒はもうないか?
甚伍 へえ、何しろ無人《ぶじん》で。
吉村 表の児玉を呼んで買いにやるか?
甚伍 それでは外廻りの警固が手薄になります。
吉村 そうビクビクせずともよいということよ。
甚伍 しかし、何しろ……。
兵藤 (不意に青い顔になり)貴公は天狗組の隊士か?
井上 ……そうだと申したら、何と
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