ろ拙者一個としては、あれについては関先生以下の諸氏に感謝している。それとこれとは別だ。なるほど水戸の人間は鋭い。しかし鋭過ぎる。いつも行き過ぎるのだ。よろしい、立てといわれれば立たぬでもない。だがお互い命を捨てるのはいつでも捨てられる。ま、聞かれえ! なるほど諸藩連合のことについては、いまとなっては、いつどこでいってもいま更めくことは拙者も知らぬではない。全国諸藩の事情がかくの如く複雑に入り組んで来ては、連合の望みも殆どないというのも、一応の見方だ。しかしだ、よいか! そのようなときだからこそ、いまこのことを声を高くしていわねばならぬのだ! わかるか? 大道は複雑高遠のところにあるのではなく、却って単純な見易いところにあるのだ! 事柄の中に巻き込まれている者には、その事柄の繁忙の中に取りまぎれて、それが見えなくなってしまう。最初の大義を忘れがちだ。これが子供だましのように思える。殊に即今諸藩のやり口を見ていれば、漸く天下のことを没却して、各々自藩の利益々々と立廻るか、何事をするにもまず「わ[#「わ」に傍点]が藩が」「おれ[#「おれ」に傍点]の藩が」というところがありはしないか? 失敬か
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