ば白々し過ぎると言うのだ! それは、命旦夕に迫った病人、それも薬という薬を試みても甲斐のなかった重病人に、いま更になって飴をなめさせて治せと申すのと同様! 人を馬鹿に扱うのはよい加減にされっ!
兵藤 馬鹿に扱ったと? 拙者が尊公をか?
井上 そうではないか! 拙者をとは限らぬ、水戸全藩を……。
兵藤 (おっかぶせて)救えぬ! うん、これでは救えぬ。ひねくれよったのだ。以前からそうであった。それが、庚申桜田のこと以来特に甚だしくなった。薩藩から見捨てられるのも道理だ。
井上 ひねくれたとっ?
兵藤 そうだ! 他に何といいようがある?
井上 (ジリジリして)ウー。よし、それはよい、ひねくれたとして置いてもよい。然しながら、庚申のことは拙者等、父祖先輩諸氏の義慨に発したことだ! ことの是非善悪に非ず、それをとやかく批議されるにおいては拙者としては黙許出来がたいことはご承知であろう。どうだ立たれるか! (畳の上に置いた大刀を掴んでいる)
甚伍 井上さん、まあ、ま……。
兵藤 それだ、すぐそれだ。庚申のこと以来と申しただけで、批議するといっても他に拙者が何を申した? ひねくれでなくて何だ? むし
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