少し下って縁側近く利根の甚伍左。
井上と兵藤がかなり前から激論していて、もういうべきことはいい尽した末、なおもいいつのろうとして口調も態度も殺気立っている。吉村はニヤニヤしながらそれを横から見ている。甚伍左は無言で時々腰を浮かしたりしてハラハラしている。
[#ここで字下げ終わり]
井上 ……いま更、いま更、子供をだますようなことを言われなっ! 水戸が如何に時世に不敏なりとは申せ、まった、拙者不学といえども、それくらいのことはとくに存じおる。去年貴藩において外国軍艦を砲撃されたことも、薩州の英艦撃退のことも知っておる! それは振りかかった火の粉を払ったまでの話。
兵藤 なにっ! 振りかかった火の粉を払ったまでの話だ? とそれを正気でいうのか、貴公?
井上 よしんば、それだけの志あってのこととしても、今日においては薩長会津三藩のみでなく拙藩を初め土《と》州、因州その他大義に志を抱く藩は多数これあり! これらが小異を捨てて大同につき連合してことに当れば、とはすでに五年も六年もの前から小児でさえ考えなかった者は無いのだ! それをいま更尊公の口から、さかしら立てて聞かして貰うのは、余りと言え
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