ば口は利けぬ、かい添え兼目付に後を追わせようというのもそれもあるからだ。ハハハ、無頼一匹、うまく斬っても、斬られてもだ、よしんば捕えられても後腐れはないからなあ。特にあれを頼んだのも、それがあるからだ。さ、行こう! (ドンドン山上への道へ去る)
加多 だがそれは。……(遠くの喊声と身近く音を立てる銃丸の中に腕組みをしたまま考えながら井上と仙太の去った方を見送って立ちつくしている)
[#地付き](幕)
[#改段]
6 江戸薩摩ッ原の別寮
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元治元年六月。夜。
薩摩屋敷からあまり遠くない別寮。薩藩士鷲尾八郎が多少の縁辺をたよって持主の大質屋から借りて、控えのため秘密な会合等に当てている座敷である。
十畳ばかりのガランとした室。濡縁。庭がそれを取囲んでいる。寮の左側の部分は植込み。その前を廻って左手へ行き少し奥まって見える板塀。それに厳重なくぐり戸。板塀は二重になっていてやや高い奥(外側)の塀には竹の忍び返しがついている。その外が通りになっているらしい。室内に立てられた明るい蝋燭の光の中に対座している井上(前出)、長州の兵藤(前出)、水戸浪士吉村軍之進、それに
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