よく知っていますが、剣を取ってあれだけの押しがきくのはチョッとない。
水木 私にもそれはわかるが、だが、気に障りがある場合、十のものが五つも働けないもんだからなあ。要は、山を負うて戦うか、水を前にして戦うかにある。妙なことを言っていたが、危っかしい。直ぐ後からかい[#「かい」に傍点]添え併せて目付けのため、シッカリした者をもう一人やろう。
加多 そう。やられるのは結構ですが、目付けとは、彼のために可哀そうですな。妙な男で本当に殺気立って来る前には、いつでも、あんな風なことをいいます。果して来ると言った言葉を信じてやって下さってもよろしい男です。しかし……。
水木 しかし?
加多 いや…… あれの抱いている疑いにも一応の理がありはしないかと考えているのです。
水木 何を馬鹿な! いま更、薩賊会奸づれの……。
加多 いや、それだけの話なんですが。……(遠くで起る砲銃声。銃丸が飛んで来てバチバチと物に当った音)……万々が一、あれが仕損じて幕吏または書生組に捕えられでもした場合は、水木さん?
水木 なあに、たかが博徒だ。隊士に非ずということで押し切れる。まさか違っても、手を廻して斬捨ててしまえ
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