ころばお憐み下さいまして……。
加多 よし! (ズカズカ向側へ下りて行きかける)
甚伍 加多さん、どうなさるだ?
加多 斬る! 一旗本の分際《ぶんざい》で慮外の処置だ。
兵藤 役人や手先をか? 斬ってどうするのだ!
加多 どうするもない。見ていられい! (走り下りて行きかける)
甚伍 加多さん、まあまあ!
兵藤 加多! 尊公は藤田氏以下諸先輩の至嘱を忘れたのか? まった、こうして三人、京表から先生及び拙藩の藩論を一身に帯してハルバル下ってきた使命をここで打捨てられる積りか? ……どうだ! (言われて加多ウムと言って言句に詰る)ハハハ、若いなあ。しかし無理もない。無理もないがいまそんな時ではないでしょう。どうだ甚伍左。
甚伍 へい。私なんぞによくは解らねえが、やっぱり大の虫小の虫とでも言いますかな。これで盆の上の仕事でも巧者になれば、初手《しょて》はあらかた投げてかかる。
兵藤 アハハハ、甚伍左とくると何の話でも袁彦道《えんげんどう》に[#「袁彦道に」は底本では「袁玄道に」]もってくるからかなわん。さ、行こう加多氏、ハハハ、こんなところここだけではない、これだけでないぞ。黙々として耐えて
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