甚伍 兵藤さん、あてこすりを言っちゃいけません。
仙太 いいえ、そんな、そんなこと、それは言いがかりでごぜます。兄貴はふだん村でも田の虫と言われておりまする。タンボ這いずり廻っていさえすりゃ文句のねえ男でごぜます。人柄が悪いなんどと。それは叩かれる分には、仕方ありましねえ、兄きもおらも諦めています。それを、とやかく申すのではごぜませんで。んだが、村方お構い田地お召上げのことでごぜます。あのタンボ気違いの兄きがなめるようにして可愛がっていました田地召上げられましてどの空で生きて行けますべ? それが困れば未進《みしん》上納共地代二十両、持って来いと申されます。いまごろの食うや食わずの水呑《みずのみ》百姓に二十両が二分でも、どうなり申しがしょう! これは死ねと言うことでがんす! 百姓から田地召上げるのあ、死ねということでがんす! 私、お士様《さむらいさま》には武士道と申すもの両刀と申すのがあるということを聞いております。両刀召上げられ武士道がすたれば生きてはおいでにならねえと聞いておりまする! 失礼でごぜまするか知りましねえけど、田を作るは百姓の道で、田地は両刀でごぜまする。この、このと
前へ 次へ
全260ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング