段六 (びっくりして、走り出して花道へ。七三で振返って)こんなところにいねえで、早く帰って来いよ、仙太! (言い放って井上が追って来そうな気配を見せるので一散に揚幕へ消える)
井上 いいのですか、逃がして? やって来ましょうか?
水木 ウム。怪しい男だ。
加多 いや、待たれ。大事ない。それよりも……おい仙太郎。何をボンヤリしているのだ?
水木 こら、しつかりせえ! 呼んだのに何故来ない?
仙太 ……兄きを斬ったのはこの俺だ。
水木 どうしたと? 何をいうか、馬鹿。
加多 仙太。(仙太の肩を掴む)
仙太 (眼が醒めたようになり)へい、こりゃ加多さんに、水木先生。
水木 いまの男は、確かにお前の友人か?
仙太 段六……。(見廻して)ああ、もう行ったのか。さようで、へい。(また、二つ三つ泣き声がこみ上げて来る)
井上 大丈夫ですか、この男で? 何だか少し……。
加多 いや、それは拙者が保証する。こんなふうになるよ。京都で土州の士で飯田という、これがその方にかけては名人といえる奴で、十日に一度は斬って居らぬと眠られぬと称していたが、よく知っていたが、その男が時々おかしくなるのだ。それが無い
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