抜刀している。二人の男は恐怖のために真青になってガタガタ顫え一言も口が利けず、足腰もガクガクしている男。男一は四十年配の豪農の大庄屋らしく、男二は五十過ぎの、平常ならば如何にも剛腹そうな、町方の質・両替・金貸しを業としている男。二人とも天狗党から呼び出しを食って余儀なくやってきた者で、男一は紋付に袴のももだちを取り、白足袋はだし。男二も紋附の羽織袴でこの方はももだちこそ取っていないが、羽織のえもん[#「えもん」に傍点]が乱れ、袴のすそが地に垂れて、そのすそを、時々自分で踏みつけて前に突んのめりそうになる。袴の下から覗いている腿引のつけ紐がほどけてしまって引きずっているのが見える。男二はフロシキに包んだかなり重そうな物を抱えている。勿論二人とも無腰である)
歩哨 ええい、早く歩べというたら! (右手に持った白刃を二人の頬の辺にチラチラさせながら、左手で二人の肩の辺をこづく。二人のめり歩く)
男一 ……お、お、お願い、で、ご、ざりまする!
歩哨 だから早く歩べというのだ。いま頃になってノコノコ来るからにゃ、どんなことになるか覚悟の上だろう。行けっ!
男二 ど、ど、どうぞ、命《いのち》をお召
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