途中取押えに出張っていた諸藩の兵にロクスッポ手に立つ奴あいなかったっていうじゃねえか。こてえられねえなあ。
遊二 手に立つ奴がいないと聞いて、行きたいのだろう? ハハハハ。
遊一 阿呆いうなて! 俺あ軍《いくさ》がしたいのだ。どうしているのだろうなあ、本隊では?
遊二 二、三日前に来た使いの人の話では、何《あん》でも、歌の文句通りだそうだ。(歌)……鉄砲を並べハイヨ、杉の木の間で、のう火の番、一と寝入り、シタコタ、ナイショナイショ。日光にいつまでいても仕方がないから下野を廻って此方に戻ってくるらしいとも言っていたぞ。
遊一 なんにしても、軍《いくさ》が出来ねえのはつまらねえ話だ。ここじゃ攻めてくる奴もないし、ノンビリし過ぎらあ。(掃除をした銃を振って桜の垂枝を叩き落す)こんなものまで咲いているしよ、まるで物見遊山だあ。クソッ! (と銃の台尻を肩につけて観客席をねらって見て)昨日からの結城の合戦にも居残らされるし、腕が唸るぞ。鉄砲にかけちゃ、紫尾《しいお》の兼八敵に物は言わせねえんだがのう!
遊二 それはどうだか知らないが、下の鉄砲だけは、たしかに敵に物はいわせねえとな。ハハハハ、門前町
前へ 次へ
全260ページ中115ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング