、もともと士ではないらしい。鉢巻からのぞいている髪が町人まげである。桜の幹に四、五丁の小銃立てかけあり。他に柵前右手の大釜の傍で火加減を見たり、釜の中を棒でかきまわしたりしている遊隊々士二、これも同じような小具足いでたち。これまた、思いきりよく向う鉢巻。
 一方は銃の手入れをしながら、一方は釜をかきまわしながら調子をとって歌う)
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二人 ……おまえ何処へ行く、日光を差して、ハイヨ、固め人数の、のう水戸さん、眼をさます、シタコタ、ナイショナイショ。
遊一 テケレッツのアッパッパと。いけねえ、油が切れたわえ。
遊二 油が切れたら、油をつぎやれ、女が抱きたきゃ女を抱きやれと。ハハハ、どっこいしょっ!
二人 (歌)おまえ何をする鉄砲を並べ、ハイヨ、杉の木の間で、のう火のばん、一と寝入りシタコタ、ナイショナイショ。
遊一 日光へ行ったご本隊はいまごろは何をしているだろうな。斉昭公お木像の揚輿を真中にひっぱさんでさ、銃《つつ》、槍、長刀、馬轎、長棹ギッシリ取詰めてエイエイ声で押出して行った時あ、俺も行きたくってウズウズしたあ。何でも街道《かいどう》一円切取り勝手だちいうし、
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