妙 もう随分永らく戻っては参りません。
今井 しかし大体の見当はおありでしょう? 京とか、江戸とか、水戸あるいは中国九州筋か。
お妙 父のいるところならば、私の方からおたずねしたいのでござります。
今井 それは信じられぬ。……ともあれ、此処へ戻ってこられるまで、いや、せめて大凡の見当のわかるまでここで待たせていただきます。
お妙 どうぞご随意に……。しかしなぜまたそのように?
今井 いや拙者はよく知らぬ。利根氏を迎えて来いと命じられたまでです。ご免。(と上りがまちに腰をおろす。土間の隅の避難民達「ありがとうごぜました、どうもはあ」「ありがとうごぜました」「嬢さま、まあだ納屋をお借りいたしやす」等いって、怖々戸口から外を覗いてからゾロゾロ出て行く。万事こんなことはチョイチョイあるらしい取りなし。お妙無言でそれに会釈する――間)
お妙 父の身に変った事でも……?
今井 さあ……。
お妙 どうぞお願いです。聞かせて下さいませ。
今井 さあ……。とにかく拙者の知っていることは利根氏が何か面白くないことをなすっているとか、何でもそんなことです。会津の者、または水戸諸生組奸党の者がここへ来たことは
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