といわれるならば、仕方なし、拙者がお相手になる。(暴徒等默して動かず。今井、ユックリと道中半合羽を脱ぎ仕度をする。半合羽を脱いだのを見ると、捕手を斬り抜けてでもきたのか、白っぽい着物のわきから袴へかけて、多少の返り血、左二の腕にかすり傷でも負うたらしく、着物の上から手拭でキュッとしばっている。その手拭にも少し赤いものがにじんでいる。今井の態度が静かに落着いているだけにこの姿はギョッとする程の印象を与える。今井、大刀の束《つか》に左手だけを掛けて、無言で暴徒等を見渡す。……間。すでに気を呑まれてしまっていた暴徒達、何もいわずスゴスゴ歩んで戸口から出て行く。)
今井 (それを見送りおわり、息を呑んで静まり返っている避難民、お妙、段六などをつぎつぎに見た後)……前申した通り、甚伍左氏のご住居だな? (お妙に)御令嬢ですなあ。
お妙 ……ど、どうもありがとう存じ……はい、さようでございますが、そして、あなたさまは?
今井 利根さんにまだご面識は得ておりませんが、玉造文武の今井という者です。利根さんのお在りかを承りたい。
お妙 では父は筑波には居ないのでございますか?
今井 フーム、すると?

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