て、いつまでも仙太を出さねえ了見なら、くらやみの長五気が早えんだ、手初めにうぬらから斬るぞ。(刀をズット抜く)
お妙 ま、待って下さんせ。一体どういう訳なのか、それを聞かせて下さりませ。
長五 筑波の山中でこの滝三の父親、日は浅えが俺のためにゃ義理のある下妻の滝次郎を仙太が斬殺したのだ。いってもわかるめえが去年の暮。筑波に開帳の賭場、それを仙太が荒しに来て有金ソックリさらって逃げ出したのを取戻そうと追うたのを仙太が斬った。俺あ、善悪をいってるんじゃねえ。そりゃ仙太にもそうしなければならねえ訳があったのだろうが、丁度、俺あその時、筑波の滝次郎どんの控所に転がり込んでゴロゴロ厄介になっていた。もっともあの晩は他所へ行って居合わさなかったがな。ウフフフ。門前町で次の日まで居続けて、その翌日帰って見るとコレコレだ。ふだん仏と異名のあるくらいおとなしい貸元だ。部屋の者もみんなおとなしいや、親分が殺されて唯もう泣いている。ダラシのねえ話。俺も初手は黙って見ていた。が、このまま仙太を追放しといて仇も打たなけりゃ、他の親分衆に挨拶も出来なくなるし、折角の仏滝一家の名跡も絶え、渡世の看板もこれですたれる、どうしたもんでしょう、くらやみの。と泣きつかれて見りゃ、ははんそうかね、で見過していられるかい? その上一宿一飯、俺あ渡世に親分も子分もねえ風来坊だが、ならずもんの義理あ知っているんだ。……話に聞きぁ、お妙さん、お前も甚伍左てえ、えらもん[#「えらもん」に傍点]の娘だ、此処のユクタテ多少はわからねえことあ、あるめえ。何も云わずに出しねえ、真壁の仙太郎!
お妙 (サッと青くなり段六を見て)……そ、それでは、あのお金は?
段六 へ、へい、……(思い当ることがあって恐ろしくなりガタガタ顛える)
長五 (二人の様子をギラリと見て取って)見ろ、いねえなんどと白を切っても駄目だ。出せ!
段六 そりゃいいがかりと言うもんだ。この家には嬢様と子供衆の外には男気と言っては俺がたった一人ぎり。その俺もホンの一月ばかり前に頼まれた用事があってここさ来て、嬢様の苦労を見るに見かねて、こうしているのでがす。
長五 くでえ! じゃ踏込むぜ、いいなあ?
段六 聞きわけのねえ! 何もかも言ってしまいますべえ。お前さん仙太公の兄弟分か何か知らねえが、俺あ真壁で仙太公とは餓鬼のときからの友達だ。去年の暮の晩方、仙太公がヒョックリ俺のところへ来て、こちらの嬢様のところまで、自分は追われていてどうしても行けねえからお前代りに使いを頼まれてくれというて用事を頼んだ。そして自分はその夜のうちに行く先もいわずに何処かに行ってしまうた。それっきり俺あ仙太公にゃ合わねえのでえす。俺あそいですぐにも来ようとしたなれど、丁度その一日おいて次の日だ、お前さん知るめえが、仙太公も俺も一所懸命で捜していた仙太の実の兄きの仙ヱムどんが見つかったのだ。見つかりは見つかっても死んで見つかった。殺されていたのだ。それまで何処にウロウロしていたのか、仙ヱムどんは結城様の藩兵につかまって、いやおうなしに縛られてさ、あんでも、天狗退治の軍《いくさ》の仕度の軍夫に使われていたて。それをあんでも後で聞けば天狗党がやって来て佐分利の縄手で、兵糧米の俵かついだまま軍夫を三十人からブチ斬って米持って逃げたて。その斬られた軍夫の中に仙ヱムどんがいたのでええす。それを引取りに行くわ、後始末をする。それから自分田地の段取りもつけとかなきゃならず、あれやこれやここへ来るのが延び延びになって俺あヤット一月前にやって来たて。仙太公のありかがわかれば、俺達こそ会いてえ、人に訊ねたりして捜しているぐらいだ。全体……仙太公という男は因果な男だて。そうして仇だなんどつけねらわれるかと思えば、あれ程恋いこがれていた実の兄が殺されたのも知らねえで、何処をホッツキ歩いているのか。つまらねえバクチ打ちなどに……。
長五 恐ろしくベラベラ喋る野郎だ、もういい。おいお妙さん。この男のいうことあ定かね?
お妙 それに違いございませぬ。私もおっしゃるように甚伍左の娘、嘘は申しません。また、あなたがそうして仙太郎さんを追いかけて、その子のために仇をと思っているお心持もわかる積りです。嘘を言って何になりましょう。
長五 ……よし、信用しよう。じゃ俺あこれで出て行くから、もし今後、仙太がここにきたならば、くらやみの長五郎がこうこうだと、男なれば逃げかくれはするな、長五郎いくらふだんはズボラでも、性根までは腐っていねえ、お前にゃドスを掴んじゃかなわねえことあわかり切っていても、するだけのことあしてえからと、忘れねえでいってくだせえ。大きにおやかましう。(刀を納めて、戸の方へ出て行きかける)
お妙 あ、チョィト、長五郎さんとやら。
長五 なんですい……?
お妙 その背中の
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