いぐら、こんなしがねえドン百姓でも一人々々じゃタカあ知れているが、十人、二十人、百人、千人と一緒になれば、ああに、やってやれねえことあねえて!
段六 あんの話だよ、仙太公? あにをまた、パクパクパクパクえらそうに、喋っているんだ、仙太公? まあだ、こりねえのか? 詰らぬアゴタば叩いていねえで、さあ、タンボだ! (仙太郎の肩を掴んで田の方へ)
甲 そりゃそうだ! 仙太さ、そうだ! んでもそこんところがなあ、口でいうなあ、あんでもねえがよ。現に村の衆等は、村の平松さま初め大百姓オヤさまだちに頼んで、この秋から年貢を少し引いて貰わにゃ、やりきれねえ、せんめて二升五合の差し米だけでも、よその郡に較べてあんまり高いで、まけて貰おうなんどと話し合っているがのう、どんなことになっかねえ、税金にしたってそうだ、特別税なんどというオッカネエもの、何とか止すか減らすかして貰おうと、現に、先だっての講中の寄合いのときにも話が出たけんど、あんたのいうように十人、二十人、百人力を合わせると言うたとて、それがさ――。
乙 むずかしいて! 口でいうのはやさしいが。
仙太 (段六に)そう引っぱるなて、ああ、じきだ。(甲乙に)初めっから、うまくは行かねえ。農事改良会の方で話を持ち出したら、どでがんすか?
甲 ああん、あれはいけねえて。根《ね》が、あれはオヤさまだちのもんだ。第一、作人《さくにん》なんどに口を利かせはしねえ。
仙太 んじゃ、耕地組合は?
乙 そだなあ……。しかしこれも駄目でがしょう。役場のひっかかりの人が音頭とっているだから。年貢のことあともかく、税金の話になったら、ことがこぐらかろうて。
仙太 んじゃ、別に作人《さくにん》百姓ばかりの寄合いば拵えたらええて。ううん、初めは小字だけで二人でも三人でも構わねえ。段々に拡げて行けばええて。
甲 そだなあ。んじゃ、ここにいるお前さん、私等、段六さ、滝さ、これだけで、おっぱじめっか? しかし、せんめて、報恩講ぐれえの人数があればなあ。
段六 (小耳にはさんで)報恩講に出てくれかあ※[#感嘆符疑問符、1−8−78] へん、アハハハ、信心が聞いて呆れらあ、いるかいねえかわからねえ仏さまなんどが、あんになっだい? 百姓はタンボが仏さまだ、タンボ大事にしていりゃいいて、馬鹿な!
お咲 段六伯父さ、よ! (段六の袖を引っぱる)
段六 あにい? 違ってるのか、話が?
仙太 お妙、お前もう戻りな、暑いで、また、身体に障るとよくねえ。
お妙 あい。……お咲、帰るで。これから源次にお茶だて。
仙太 源次郎に、桑の合いすき[#「合いすき」に傍点]は明日俺達総がかりでやっからと言うときな。
お妙 あいよ。んじゃ皆さん。(と甲乙に会釈をして、お咲とともに左手へ去る)
仙太 (甲乙に)んでは、報恩講で話ば持ち出したら、どでがんすか?
甲 報恩講ばかね? 名目《みょうもく》ばかえるかね?
仙太 ああにさ、名目は何でもええて。大事なことあ、そいで作人が寄合って、相談ができればええて。
乙 講中をそっちのけにして、物騒な話はできめえ。第一、仙太さ、お講となるとお前さま嫌って出なかったじゃねえかね?
仙太 ああに報恩講は報恩講で、やるだけのことあやって結構でがすて。いぐらお講だというても、常《じょう》年中に念仏や唱妙ばかりでもあんめえ、講の後で茶を飲めば、茶飲み話というのも出るでがしょう。話や相談はそのときで結構じゃ。方丈さんの説教で耳の掃除が出来てっから、話も一倍よく耳に入るかもしれねえて。ハハハ。そうなりゃ、嫌いなんどと、飛んでもねえ、俺も講に入るだよ。アハハ、お経さんでも何でも習うあ、斬られの仙太郎が信心ば始めるとはいい図だあ、アハハハ。
甲 アハハハ、そりゃええ! なあ!
乙 うう、そりゃええ考えかもわからねえ。いや、そいつはええぞ!
甲 やるか※[#感嘆符疑問符、1−8−78] やるかね、仙太さ※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
仙太 やりがしょうて。
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(揚幕の奥で人々の罵り騒ぐ声々が近づいて来る)
[#ここで字下げ終わり]
甲 お! あんだ※[#感嘆符疑問符、1−8−78] いけねえ、自由党かの? んじゃ、とんかく、この話は、後でもっとユックリやっとして、いま頼んだ普門院のことと、鎮守さんの寄合いのこと、頼んましたで仙太さ、ええな!
乙 あぶねえ! ここにおって、また、とっつかまるで!
仙太 いいともさ! 早く行きなせ!
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(甲と乙アタフタと左手へ走って去る)
[#ここで字下げ終わり]
段六 (揚幕の奥の声が全然聞こえないままに、そちらを見て立っている仙太郎の腕を掴んで)あんだよ、仙太公? あにをしただい? 滝三、あんだ? 向うに何かあんのか?
滝三 お父う、此方へくるが! こり
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