の方でも何百人という巡羅や刑事ば繰出したそうな!
男一 こ、こ、こりゃいかん! (本舞台へ向って走り出す)
男二 (追いかけて)ど、どこへ行くだい、神田さん?
男一 どこい行くといって、そ、そ、そそ!
男二 自分一人逃げようたって、そいつは無理だぞ! 第一、わしら、村長と助役さん早く捜し出さねえ日にゃ、どもならんがい。アワを食うでねえよ神田さん。
男一 そりだと言うて! そりだと言うて! どうしべえ、わしら? 川股さんよ、どうしべえ?
男二 あにをガタガタ顫えるかね、神田さん?
男一 あんただとて顫えているぞ、川股さん! (出しぬけにかなり離れたところに在る寺で突き出す早鐘が響き出す。ワッといって飛び上る二人)
男二 そりゃっ! (駆け出しかける。それに後からしがみつく男一。男二振りもぎって走りかける)
男一 ひ、一人でおいとく気か、川股さん! いっしょに、いっしょに連れてってくんなてばよ! (すがりつく。一、二度こけそうになったりして二人左手の道へ走って消える――早鐘)
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(しゃがんで水田を掻いていた百姓の一人が、上体を起す。稲から胸の上だけを見せた姿はすでに青年になっている孤児の滝三である。黙って右手奥遠くの寺の方を伸び上って見ている。……間)
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滝三 ……何だろうか? また、普門院で寄り合いでもあっかね? (水田の中で、フムとそれに応える声がする。滝三あと暫く鐘を聞いていてから、再びしゃがみ込んで、泥掻きをはじめる。水の音。鐘の音)
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(佩剣を鷲掴みにして揚幕から飛出してくる巡査、七三でとまって寺の方を伸び上って見た後、再び駆け出して本舞台へ。道の分れたところまで来て、一旦右の方へ五六歩駆け込んでから思い返して引返して今度は左手の道へ駆け出そうとして躊躇し、曲り角に立ったまま、どっちへ行ったものかと考え、ウム! と唸っている。鐘の音が止む。そこへ右手の道からこれも小走りに出て来る角袖の刑事。薬箱こそ負うてはいないけれども、富山あたりの行商人のなりをして、脚絆草鞋がけ)
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刑事 おお君は――。
巡査 あ、あなたは本署の、たしか泉さん。――それじゃ――?
刑事 昨日から、此方だ。私は勿論してあるが、君の方からも急報は出してあるだろうね、県へは?
巡査 いや、それがその、村内
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