しいと、だ、だ、誰が言ったんだ! そ、それを、い、い、いまさら、だましやがって! き、貴様達士なんぞ、人間じゃねえ、に、人間じゃねえ!
水木 黙れ! 黙らぬか! 加多っ! (抜刀、斬り下ろす)
加多 (これも抜刀するが、斬り下ろしかねながら)仙太、どうか死んでくれ!
仙太 (刀を振廻すが、手負いのため、相手には届かぬ、喚く)し、し、死んでくれと? 畜生! 死にたくねえと誰が言ったっ! 皆で一緒にと、あれほど言った、うぬ等の舌の根がまだ乾かねえのに! い、い、い、や、こんな、こんな、こんな目にあっては、死に、たくねえ。だましやがったっ! だましたんだっ! 畜生! 助けてくれーっ! 助けてくれーっ! チ、チ、チ(水木は殆ど気が狂ったようになって、メチャメチャに刀を振って、助けてくれ! とわめく仙太郎をズタズタに斬る。しかし、すっかりあがっているので、いくら斬ってもきまらぬ。仙太郎、刀を振廻しつつ、いざりながら狂い廻る)犬畜生! 士なんぞ、士なんぞ、う、うぬ等の都合さえよければ、ほかの者はどうでもいいのだっ! ご、ご、御一新だと! 阿呆っ! うぬ等がいい目を見たいための、うぬ等が出世したいための御一新だっ! だましたっ! だまされた! 犬畜生っ! 犬畜生っ! (それを水木、顔と言わず手足といわず、ズタズタに斬る。仙太郎わめきながら崖縁まで追い詰められ、苦しまぎれに横に払った刀が、水木の腰にザッと入って、水木ワッと言って飛下って倒れる)
水木 加多っ! 加多っ! 何を、何をしている!
加多 よし! (刀を上段に構えて、ツツと崖の方へ)仙太郎、許せ! (言いざま、スッと斬り下ろした刀、仙太郎の肩に入る)
仙太 犬畜生っ! 士の犬畜生っ! アッ (同時に崖を踏みはずして向う側へ落ちる。落ちながら呪いののしる叫び――)
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(間)
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加多 ……(落ちて行く仙太郎をジッと見下ろして立っていた後、ヨロヨロ歩いて来る)ウーム。(ボンヤリ立っていてから、変に唸るような声を出す。泣いているのである……)水木さん、斬った。
水木 おお!
加多 あれは立派な、男であった。……この身体では拙者も……。ご免、お先へ。(言うなり持っている血刀の穂を右襟首の辺へスッと立て、刀はそのままビューンと投げ出し、チョッとの間、立っていてから、ガクリとして、前のめりに
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