のだ。時世御一新のための鬼になって、以て瞑そうというのだ。田丸、藤田その他の諸先輩はどう考えていられるか拙者知らぬ。知る必要も無い。ただ拙者はそう思っているのだ。
甚伍 ……どうあっても行くのか?
加多 拙者一人が行くだけでない。本隊はすでに宍戸あたりまで行ったろう。拙者は、一緒にそういうお前も、この仙太郎も連れて行こうと思っているのだ。来い!
甚伍 それじゃ……。
加多 もういうな! 甚伍、キザをいうと笑おうてくれるなよ。蒼空皇天のもと、九尺の腸を擲って一個の烽火となろうというのだ。
甚伍 ……………。
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(いきなり、幕軍の砲弾が、この家の奥の間あたりの屋根に命中して、それを打抜いたらしく、物凄い轟音とともに家全体がグラグラッと揺れる。バリバリッと屋根のこわれる響き。奥の間へ通じる口から、バッと吹き出してくる黒煙と、砂煙。この音と煙は幕切れのときまでつづく。
三人同時にオウ! と叫ぶが、誰も動こうとせぬ)
(奥から煙と共に転げ出てくるお妙)
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お妙 アッ! 仙さん! 仙太郎さん! お蔦さんが! お蔦さん、梁に打たれて! 仙太さん、早く、早く!
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(仙太郎それを聞くや、返事もせずにパッと飛上って、奥へ走り入る)
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甚伍 おお、妙!
お妙 ああ、お父さん! お父さん!
加多 来たな! 奥に誰か居るか?
お妙 お蔦さんが背中を梁に打たれて――。
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(戸外から四人の男が入って来る。これは寄場の人足で、中の一人は第四場に出た者。四人とも刀を背に斜めに負うている)
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加多 誰かっ!
人足一 真壁の仙太郎さんにお会いしてえんで。
加多 何用だ?
人足二 私等、天狗党に入れて貰いてえ、水戸へ行きてえのです。
加多 そうか、よし! 来い!
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(その間も壁がくずれ落ちたり、物が焼けたりする音が続く。家はまだ揺れている)
(抜刀を下げたまま奥から出てくる仙太郎)
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お妙 仙さん、お蔦さんは?
仙太 死んだ。梁に打たれて胸から下はザクザクになって、早く息を止めてくれ、どうせ助からない、早くあなたの手で……。そういうから、かわいそうだが……。(わっと泣き出すお妙)
お妙 すみません! すみません!
人足一 仙
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