しになることだけ……。
歩哨 それは係りの方の前でお願いして見ろ。もう近い。それ、これが第一屯所だ!
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(いわれて初めて男二人は前を見て、物々しい柵と二人の士を認めて、へへえっ、といったなり、ヨタヨタ、七三の所に坐り込んでしまい柵門の方へ向って土下座)
[#ここで字下げ終わり]
歩哨 また、坐り込んでしまう! 手数のかかる奴等だ、立て。こらっ!
隊一 おい、あまり手荒なことはするな。何だ?
歩哨 おお、いえ、四月初めにお呼出しを受けた物持|分限者《ぶげんしゃ》の中で、これまで出頭しなかった者で。沼田まできてウロウロしていたので連れて参りました。さ、歩べ! (と二人を押しやるようにして本舞台へ連れて行く)
隊一 フン、そうか。怪しからん奴等だ。どこの者で何と申す?
男一 ど、どうぞ、お助けなすって。お願い……。
隊二 じゃから、何という者か? どこだ?
男一 か、か、川尻で中山忠蔵と申しまする。
隊一 おお、貴様が川尻の郷士忠蔵か。百姓どもをはたいて大分、ため込んだというなあ。米倉だけで十何戸前だとか。たしか、本隊から玄米百俵だけ徴収、借受けるよう達してあった筈だが、持って来たのか?
男一 はい、百俵なんど、私などのところに、一度に、それ程はございませんで、こ、こんど三十俵だけ馬につけて参じまして麓まで、へい。あとあとは、また、あとあとで、たしかに……。
隊一 よかろう。
男一 へい? そ、それではここで戻りましても……?
隊二 馬鹿、山上へ行くのだ。あまく見るなよ、忠蔵とやら。貴様からはたき抜かれた百姓の子供やなんぞが、この山には大分いるぞ。しかも、いまごろまで呼出しを延引したこともあり、かたがた、そのチョンマゲが、その胴についているものやらいないものやら、保証は出来ぬ。此処ではわからぬ、山へ行けっ!
男一 へええっ!
隊一 (歩哨に)この者は?
歩哨 下妻の物持で戸山それがし――。
隊一 おお、長兵衛という奴だ。そうか貴様が戸山長兵衛か黄金二百両、そうだったな? 帳面を見るまでもない、佐藤先生のいっておられたのを憶えている。持参したのか?
男二 へ、へ、へい、持って参りました。しかし、そ、それが、ああた、二百両と一口に仰せられても、当今、……そんな訳で、五十金だけ、やっと、それもかき集めて参りましたため小判小つぶ取りまぜての……へい。
隊一
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