見ろ、あやめ踊り今様っ!」……で踊り出したらしい。
歌声。他に三四人がそれに和す。沢山の手拍子の響。
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――高麗のあたりの瓜作り、(ヨイショッと多数の掛け声)
瓜をば人に取られじと
もる夜あまたになりぬれば(ヨイショッ!)
瓜を枕に眠りけり――
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歌声とともに興にのって、屯所の方より舞台へ踊り出してくる隊士一――前出――と隊士二。隊士二は小具足の上に白革の陣羽織を着て、刀を抜いてひらめかしながら。隊士一は『尊王』と書いた陣旗を持って、打振りかざしつつ。心地よく昂奮して歌いつつでたらめな乱舞を舞台一杯に。屯所の方より掛け声と手拍子と笑声。
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――大和島根の民草の(ヨイショッ!)
ここに男児と生れなば
花の吹雪の下蔭に(ヨイショッ!)
大君の為われ死なん――
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(その歌と踊りが、まだ終らぬのに、揚幕の方で怒声)
声 こらっ! 早く歩べえっ! 歩ばんかっ!
隊一 (惰性で踊りながら)おお、何だ? (二人花道の方を見る。揚幕より、うしろから突き転ばされるようにして来る二人の男。後より天狗党の歩哨、これは抜刀している。二人の男は恐怖のために真青になってガタガタ顫え一言も口が利けず、足腰もガクガクしている男。男一は四十年配の豪農の大庄屋らしく、男二は五十過ぎの、平常ならば如何にも剛腹そうな、町方の質・両替・金貸しを業としている男。二人とも天狗党から呼び出しを食って余儀なくやってきた者で、男一は紋付に袴のももだちを取り、白足袋はだし。男二も紋附の羽織袴でこの方はももだちこそ取っていないが、羽織のえもん[#「えもん」に傍点]が乱れ、袴のすそが地に垂れて、そのすそを、時々自分で踏みつけて前に突んのめりそうになる。袴の下から覗いている腿引のつけ紐がほどけてしまって引きずっているのが見える。男二はフロシキに包んだかなり重そうな物を抱えている。勿論二人とも無腰である)
歩哨 ええい、早く歩べというたら! (右手に持った白刃を二人の頬の辺にチラチラさせながら、左手で二人の肩の辺をこづく。二人のめり歩く)
男一 ……お、お、お願い、で、ご、ざりまする!
歩哨 だから早く歩べというのだ。いま頃になってノコノコ来るからにゃ、どんなことになるか覚悟の上だろう。行けっ!
男二 ど、ど、どうぞ、命《いのち》をお召
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