と女が、その足をバタンとわきにやって
「あんた、金、持って来てくれた?」
「う? うん……」とお前は言って又、その足にキッスした
びっくりして私は声を立てそうになった
お前は不意に気が狂ったのか?
それとも、それは実はお前ではないのか?
そう言えばこの室に入って来た時からお前の顔はいつもの重々しく理智的な高貴な表情をなくしていて
いやいや、それらの顔つきはそのままソックリとありながら
又となく愚かしい、デロリとゆるんだ顔になっている
あの鋭どい、深い思想家のお前が、こんなふうになる時が有ろうと誰が思ったろう?
しかし、それから起った事のすべては
さらに意外な事ばかりだった。
とは言っても、かくべつ、多くの事が起きたわけではないし、珍らしい事が起きたのでもない
世の中の男と女の間に、いつもある事があっただけというほかにスベのない事で
私のような暮しの女には今更めずらしくもなんともない
言って見れば大昔からタイクツなタイクツなバカの仕事、
それでいて、しかしなぜだろう? 私は下の部屋をのぞきながら
次から次と、びっくりして、何が何やらわからなくなり、カタズをのんでいた。

お前と女との事は
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