なまじすこしばかり知ったために、よそうと思っても思いきれぬ
しばらく経ってアパートの管理人に会って遠まわしに聞いて見ると
「五号の田川さんというのは、そうですねえ
何をなさる方だか、よくは知らないが、まあ顔役といったような方ですかな
今、刑務所に入っています
なにチョッとしたサギかなんかやったと言いますがね
奥さんはもと新橋へんの小料理屋に出ていた人で
現在は一人で暮して田川さんの帰りを待っていると言うわけだが
男の客がよく来ますよ
きまって来る人が三人ばかり居る様子で、
とにかく、まあ、うまくやっているんじゃないですかね
へへへ、そのへんの事は、よく知りません」
ゲスな中老人の口のはたのせせら笑いで
女の暮しの正体はいっぺんにわかった。
しかし、そんな女の所へ山田教授ともある人がなぜに来るのだろう?
妙に知りたい。嫉妬のようなものが私の内に起きた
完全に自分の手に握っていて
どこの隅まで知りつくしていると思っていたお前さんが
私の知らない所で、私の知らない事をしている
よし! と思った。その次ぎにお前が外に出て急にソワソワしはじめた時に、私は大急ぎでタクシイに飛び乗るや
そのアパ
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