って行き
ドアの前に立って耳をすますと中で女の声がして
それにお前が何か言っている
ドアのわきを見ると五号室とあって小さな名刺に田川と出ている
私はしばらくそこに立っていてからユックリ歩んで帰りかけたが
その時表から此処に住む人らしい人が入ってきた
トッサにどうしようと私は迷ったが、
見ると、直ぐわきに二階にあがる階段がある
腹をきめて、わざとユックリと落ちついた歩きかたで階段を昇った
人が見れば、二階に住んでいる誰かを訪ねて来た客に見えよう
昇りつめるとカギの手のおどり場になっていて
下の廊下からは見えないので、そこにしばらく立っていてから帰るつもりでフッと見ると
おどり場のわきの壁が焼夷弾でも受けた跡かポッカリと口を開けて
申しわけに二三枚の板が打ちつけてあるだけ
すかして見ると、その奥はまっくらで、天井裏になってるらしい
位置の関係から、それが今見た下の五号室の天井になってるようだ
頭にキラリと来るものがあって、よっぽど、その穴にもぐり込んで、天井のスキ間から
のぞいて見ようと思ったが、いくらなんでも出来なかった
そしてその晩はそのまま戻ったが
ハナから知らねばなんでもなかったの
前へ
次へ
全91ページ中68ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング