、
しかしその気がありさえすれば
駅のほとりの立ち話しのコンクリートの壁の片かげで
空襲でかけこんだ防空壕の奥の闇で
面会に行った兵営の隅の草のかげで
私をあの人にあげられなかった筈はない。
からだの奥でカッとなって燃えていて、
取ってちょうだい取ってちょうだいと
心が叫んでおりながら、
私自身がそれをそうだと気が附かなかった、
あの人もまた私に求めておりながら
それをそうだと気がつかず
それを取るスベを知らなかった、
そしては、やさしい深い良い眼をして
私のからだを包みこみ、
包みこまれて、私はブルブルふるえていたっきり。
そうだ! あげなければならない人にはあげないで
この通り、与えたくもない人に与えてる!
自分の真珠を王子さまにはあげなかった小娘が
あとになって、そこらの豚に手当りしだいに投げてやってる。
おわかりになりますか? なりますね?
こうして此処に立っている私はなんでしょう?
やめろ!
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(同時に音楽パタリと中断。美沙、再び椅子に行き、自分をおさえるように腰をかけ、片手をあげて、熱した額と両眼をしばらくおさえている。盛りあがった白い胸が大きく息づ
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