あなたの兄さんは、戦争中に、
右翼の国内革新論の講演をなすっていたのと同じような熱と火と美しい言葉で
左翼の論説をなすっています
あなたは戦争中の兄さんの理論に引きずられ、信じ切り、悔いを知らずに出征し
そして今あなたの骨は、どこかの海の底の岩かげに横たわっているの?
そうして私は、こうしてからだも心もくずれこわれて
腐れかけて坐っています
何かいうことがあった徹男さん
カタカタカタと骨と骨とを打ち合せて
私たちの前におどり出ていらっしゃい!
こうなった私と、しゃべり立てているあなたの兄さんの前に!
ちきしょうッ!
憎しみが、ギリギリと憎しみが
腹の底から突き上げて来る!
人も自分もまっくろになり
ドクンドクンと胸いっぱいに脈を打ち
耳が聞こえず、目が見えなくなったまま
どれくらいの間、私は坐っていたのだろう
気がつくと、そこらいちめん息苦しく
私は息がつけなくなり、チッソクしかけていた!
山田先生の声はまだつづいている
人民民主戦線――?
人民戦線だって?
それは、なんだ! なんのことだ?
とにかく、私は息がつけない、苦しい
助けてください、空気が欠乏して来る
兄さん、徹男さん、助け
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