てください
いいえ、先生――なんだって?
山田先生?
そうか、山田先生、お前さんか?
だしぬけに、私の頭がシーンと静かになり、
ああ! と思った
そうだ、お前さんといっしょの空気を吸っているわけには行かないんだ私は
お前さんといっしょに呼吸してはおれないのだ私は
お前さんが生きている世の中で私は生きておれない
私は死ぬのは、まだイヤだ
お前が死ね。
…………
そして、私はあの男を殺す気になっていたのです。

それから一週間、クラブもお座敷もパトロンも、みんなことわって
アパートのベッドで毛布を頭からひっかぶり
考えに考えぬいた
先ず、人を殺すのは悪いぞと思った
しかし、悪い? 何が悪いの?
牛を殺して食って、悪いかしら?
いいや、人間は牛ではない、悪いとも!
だけど、悪くたって、それがどうしたの?
――善い悪いが私にとって――人ではない、この私にとって、善い悪いがなにかしら?
悪いことは知っている、知っていても
山田先生、お前さんは生かしておけないのだ。
しかし待てよ
こんなふうにあの男を憎んでいる私の憎しみそのものが
まちがった所から生れたものではないだろうか?
山田先生が私に対して
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