んです
そのままで行けば、すべてがそれで過ぎたでしょう
新興成金か何かを選んで結婚でもするか二号になるか
案外に、普通に幸福に身のおさまりをつけていたかも知れません
なぜなら、そうしていても、徹男さんのことも兄のことも
先生のことも、めったに思い出しもしなかった
ですから、それから半年あまり過ぎて
なんの気もなく通りかかった或る講堂の表に出ていた
左翼関係の講演会の立看板に
山田先生の名を見つけ出して、それを聞いて見る気にヒョイとなりさえしなければ
こういう事にはならなかった
くやんでよいか、喜こんでよいか、悲しんでよいか
いまだに私にはわからない。
切符を買って中に入ると
共産党の人がしゃべっていて
それがすむと山田先生が出る。
久しぶりの先生の顔はツヤツヤと輝いていて
なつかしいような、うらめしいような
前の人の背中のかげにかくれるように身をちぢめ
私はドキドキと先生を仰ぎ眺めてばかりいて
初めの間は先生の話がわからなかった
そのうちにだんだんわかって来た
それは終戦後、憲法の上では基本的人権が認められるようにはなったが
実際の事実の上では人権は確立されていない事を
失業者の実態
前へ
次へ
全91ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング