ヴュ小屋の踊りや唄は、それとは違う
ただ音楽だけはわかるので、ただそれに合せてデタラメに
踊ったり唄ったりしただけ
ところが私のその頃の、何がどうなっても同じ事と言った気持が
唄にも踊りにも投げやりな変った味をつけるのか
舞台に立ったその日から人気が立って
小屋では私をスタアあつかいにする
ダンサアくずれのアルコール男は私のことを天才だと言って
目の色を変えて世話を焼き
手を取るようにして踊りを教える
その教えかたといったら!
どんな舞踊の教科書にも書いてない
どんな教師も教えない――
第一に、人間の前で踊ると思うな
男の下腹部の前で踊れ
いや踊ってはいけない
自分のはだかを、ただ男のペニスをねらって動かせ
それだけが古往今来ダンスというものの本質だ
それに役立つことならばどんな身ぶりでも、どんな動作でもやって見ろ。
そう言って狂ったようになって教えてくれる。
この男こそ、もしかするとホントの天才かもわからないと思ったことがある。
私は踊った
三月の後には、それでけっこう一人前のソロ・ダンサアになっていた
私の暮しは楽になり、母にも金が送れるようになる
レヴュ小屋でもらう給料は僅かだが
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