に泊った
男が無理にさそったからではない
彼はただ淡々と、しまいまで自分の名も言わず
私の名を聞こうともせず
引きとめようともしなかった
ただ、「行く所がなければ泊んなよ」と言うだけ
そして私はアパートへはもう帰りたくなかった。
そして男といっしょに寝て
なんの喜びも、なんの悲しみもなく
からだを彼に与えた。
彼がそれを要求したのでもなく、私が求めたのでもない
綿のようにくたびれ切った二匹の犬が
からだを寄せて寝たというだけ。
なにかがすこし痛んだだけで、快感は微塵もなかった
男もそうではなかったか
彼は五分の後にはスースーと眠ってしまい
そして翌朝私が目をさまして見ると
残りのコッペパンを一つと、金を六十円、私の枕もとに置いて、居なくなっていた
それきりあの男は私から消えてしまった
あれは、まるで風のような男だった
風は私の頬を吹きすぎて
なにもかも執着しないおだやかな冷たさで
どこかを今でも歩いている……
その次ぎの夜から私は、そのガードの下に立った
男が寄って来る時もあれば来ない時もある
男たちは私を妙な所へつれて行く
焼跡の草むらに導いて
いきなり、ねじたおす男もいる
金をく
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