犬のうしろから野良犬が歩くように
無関心に、ただなんとなく同じ方向へ歩いて行く
長いこと、どちらからも口はきかない
しばらくして、ゴソゴソと音がするので目をやると
男は雑嚢から何か出してそれを噛みながら歩いている
やがて「よかったら、これ食わないか」といって
コッペパンを一つ鼻の先に突出した
ムカッと嘔吐を感じて私がそれを睨んでいると
男はフフフと笑って
「遠慮しないでいいよ
これ食ったからって代をくれとは言わん
ひもじい時あ誰だって同じこったもんなあ
へへ、第一、こいつは俺にしたって、かっぱらって来たもんだ
恩に着なくたっていいよ
お互いに、敗戦国のルンペンじゃねえか。
しかし無理に食ってくれと言うんじゃない、いやかね?」と言って、
パンを引っこめそうにした
その時、どうしたわけか私は手を出して
さらうようにしてコッペパンをつかみ取ると
黙って、いきなり、それにかぶりついて食べはじめた
味もなんにもないゴリゴリのパンを。
男はべつに笑いもしないで
自分も自分のパンを噛み噛み歩き
そうして二人は暗くなった町中に入った

その夜は私はドロドロに疲れはて
ある盛り場のガードのそばの掘立小屋
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