だ兄の言っていた事を思い出した。
全部いっぺんにわかって来た
この人たちは左翼の人たちだ
すると先生は? 山田先生は?
いや、先生はもともと左翼だったのだ
え? すると? しかし――?
だから戦争中は右翼に行って――?
それが、しかし、左翼なのだから――?
けど、今度はこうして左翼になって――?
でも、あんなに真剣な大東亜共栄圏論者だったのだから――?
だから「僕なんぞも厳密に言えば戦争協力の責任をまぬがれない」と言っているじゃないか
しかし、それを、どうしてこんな人たちの前でわざわざ言っているのだろう?
そして又、その言い方が率直で誠実であればあるほど
なぜこんなに卑屈な、オベッカじみた、弁解のように響くのだろう?
責任はまぬがれないとの言葉が良心的であればあるほど
もう既に許されて、責任をまぬがれている者が言っているように聞えるのか?
次第に私のからだの中で渦のようなものがめぐりはじめて
静かに静かに目まいが襲って来て
自分がどこに居るか、わからなくなった
バラバラバラと私のうちで飛び散って
こわれ、流れ、ぬけ落ちて行くものがある
とどめを刺されて、
キャフン! と息の絶えたもの
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