戦争が終って三月たった秋の末に
私が山田先生の内を訪ねて行ったのにも
かくべつの目的が有るわけではなかった
ヌケガラのようになった自分のからだを
なんとなく、そこへ運んで行って見たと言うだけ。
山田家の空気は以前とチットも変らない
「ずいぶん痩せたわねえ。でも、まあお元気でよかった」と
出て来た奥さんも子供さんも
前と同じに明るく人なつこい
先生の書斉に通されると、先生は笑って振り向いて
「美沙子君か、どうしていた?
なんだか顔色が悪いが、どうかしたの?」
「はあ、いいえ別に――」と私が答えると
先生は深くも問いかけず
そこに前から来ていた四五人の客の話の中へ戻られた
ソッと坐って見まわすと書斉も以前と同じだし
来客たちの様子も以前の研究会に似ている
ただそこには徹男さんが居なくなっただけだ
妙な気がした、私は何か夢を見ていたのだろうか?
気が遠くなるような気持で私は
先生と来客たちの話に耳をなぶらせていた
そのうちに、私にだんだんわかって来たことは
すべてが以前と全く同じでありながら
すっかり変ってしまったと言うことだ。
はじめそれがわからなかった、わかる筈がない
先生と来客たちが盛
前へ
次へ
全91ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング