して空を仰いでケラケラと笑っていた
もっと深く傷ついた人たちは泣きも笑いもせず
自分の眼の前をジッと見ていた

次ぎの日から私は寝こんでしまった
いっしょに住んでいた先輩の女優はズッと以前に
はげしくなった空襲に耐えきれず
遠い田舎に疎開していて、
一人きりのガランと何もないアパートの部屋に
泥のようにコンコンと私は眠った
病気ではない、ただの疲れでもない
だけど、どんな病気よりも、どんな疲れよりも重くのしかかって来る
ものに押しつぶされ
半月ばかりして起き出してからも
私の頭はなんにも考えられなかった
しばらくすると貯金がなくなる
持ち物を次ぎ次ぎと売っては食って、
今はもう着ている物以外に何一つ残らぬ
食う物がなくなれば水だけで三日位は動かずにいる
それでも、どうしようと言う気は起きない
国の母には既に金はなく
しばらく前から私の方から暮しの金を送ってやっていた
今は病気で寝ていると言う
これを考えても、どうにかしなければならぬとも思わない
部屋代を払わないので、アパートからは矢のように追い立てを食っている。
それでも私の日々はウツラウツラと
ただ白い紙のように過ぎた。

だから、
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