いた
いつ起き出して、いつ眠って、いつ食べたか
なにも感ぜず、なにも考えず
ミクロメエタアと取り組んだ
そのために、全工場の模範突撃隊員として、
なんども表彰されたが
そんな事はどうでもよかった
空襲はますます激しくなって
工場は吹き飛び、人々は死ぬ
私の血走って、すわってしまった眼の前には
いつでも徹男さんが来て坐って
「待っていろ、待っていろ」とばかり
あの人の仇を打つような気で働らいた
そうだ、ホントに私は気がちがっていた。
死も生も爆弾も血も
すべてが私を既におびやかさなかった
私は白熱しきって凍りついてしまった炎であった。
そこへ終戦が来る
終戦。――世間では終戦と言う
日本語のおかしさと、そんな日本語を使って
自分の神経をごまかしている日本人
恥じるがよい、
それは敗戦であり、降伏だ。
私どもの工場の火は消え、物音は止む。
しばらく前から工場では降伏の噂がひろまっていたから
八月十五日は、かくべつ意外な気はしなかったが
それでいて、いよいよそうなった瞬間に
思いもかけない深い影と静けさをともなって
それは私たちの上に落ちて来た
人々は抱き合って泣いていた
また、人々は茫然と
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