の事なので
変に思って門衛の所へ行くと
あの人はいつもの学生服で
珍らしく明るい微笑で立っていた
二人は構内を塀に添ってユックリと歩く
「何か御用?」と私は言ったが
徹男さんが用事で来たのだとは思っていない
あの人も何も答えず
晴れた空の下をユックリと歩く
そのうち、あの人がポケットから
小さい写真を出して見せた
G劇団の人からでも手に入れたのか
舞台写真から私の姿だけを切り抜いたものだ
「……どうなさるの、そんなもの?」
と私がいうと、フンと言ってそれと私の顔を見くらべてから
写真をポケットにしまいこんだ
それから又しばらく歩いているうちに、不意に私はわかった
「ああ、いよいよ、入隊なさるのね?」
「うん、明日」
そうか、そうだったのか。
明るい明るい、すき通るようなあの人の顔。
そこへ、出しぬけにサイレンが鳴り渡り
警戒警報なしのいきなり空襲
アッと思った時には、空一面が爆音で鳴りはためき
キャーンと――迫る小型機の機銃の弾が砂煙をあげる
広場の果ての防空壕へ
途中で二度ばかり倒れた私を
あの人は抱えるようにしてかばいながら
斜めになって走って行き
防空壕の中に飛びこむと同時に
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