ドドドドと至近弾の
音とも振動とも言えない落下
二人は階段の下の暗い所に
折りかさなってころげ落ちて
そのまま死んだようになっていた
どれ位の間、そうしていたのか
時間はピタリと停ってしまっていた
気が附くと、あの人は倒れたままで
私のからだをこんなふうに、シッカリと抱きかかえ
私の耳のうしろの、この、えりすじに
ピタリとくちびるを附けている
爆撃はまだ続き、
空にはためく爆音と高射砲の響きと
揺れ動く地上の唸りは、遠くなり又近くなる
その中で、あの人の声が
はじめて聞く、こまやかな思いをこめてささやく
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「……美沙子さん、
ぼくは明日、行く、
国民のために戦う
あなたのために戦う
それは僕の望むところだ
そのために僕の身がどうなろうと僕は悔いない
僕は、うれしいんだ。
…………
しかし、美沙子さん、
今、恥かしい事を、たった一言だけ言います
今迄こんな気持になったことはありません
たった今、急に起きた気持なんだ
こんな事を聞けば
兄さんは僕を軽蔑するにちがいない
あなたも軽蔑するにちがいない
軽蔑されてもよい、言わないでは居られないのだ
美沙子さん!
僕は死に
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