男も知らぬ、一本気の
熱情だけは人一倍に激しい十九歳の女が
心から人を尊敬するのに
その人を愛さないでいられようか?
尊敬と愛とを別々に切り離して
それぞれハッキリ見きわめることが出来ようか?
研究会の会員や劇団の人たちが
私のことを「山田先生の親衛隊」とからかっても
私はまじめに心の中で
山田先生にマサカの事がある時は
身をタテにして先生を守る気になっていた
その事で一度、先生の奥さんが私に嫉妬されたことがある
そして徹男さんまでが、兄さんを嫉妬した事があったと言うのを後で知った
かわいそうな、かわいそうな徹男さん。
徹男さんは既に数カ月後には
学徒出陣として戦線に立つことが決まった
その後も、徹男さんと私との関係は
一分一厘も進みはしなかった。
それに、もう、戦況が進むにつれて
国内のありさまは車輪のようにあわただしく
私の劇団の活動もやれなくなって来ていたし、
「もう、こうなったら、君たちは
文化活動などやっているべきでない」との先生の意見に従って、
産業報国会へ話をしてもらい
Mにある飛行機工場の計器部へ
特別女子挺身隊員として通勤するようになり、
一週二回、研究会で顔を合せ
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