論文を書いても講演をしても私たちに教えるにも
熱烈で叱咤するようであった
そのくせに、いろいろの方面から、赤ではないかと睨まれていて、
いやがらせや妨害を受けた
それさえも私たちには先生の思想が正しいことの證拠のように思われて
仰ぎ見るように先生を眺めた
長身の先生のからだは、ハガネのように真すぐに立ち
顔は以前よりも痩せて鋭どくなって
内からの火で輝いた
「腐れ果てた役人どもめ!
気がつかないのか、今となっては最右翼の考えでさえも
真に国を愛し憂える真剣なものならば
言い方はいろいろに違っても、実質に於て
上御一人を中心にした、それに直属する一国社会主義でなければならぬという所まで
来ているという事を!」
と怒りをこめて言い言いされた
私にとっては先生は文字通り
導きの光であった
私の兄は大戦が始まると間もなく九州で死んだ
母は薄暗い家に一人で残された
あわただしい時代の波風は
私が兄の死に逢いに行くことも許さなかった、
シミジミとその悲しみを味わっている暇もなかった、
私の胸の中の兄の席は空虚になったが、
それだけに、そのぶんまでも先生に向けて
私は先生を崇拝し愛した、
世の中も
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