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(音楽。――それに乗って、ステージのはじまで踊って行く。柱の所まで行って、不意にバッタリと踊りをやめて、言葉を出す。音楽だけ、やり過ごされて、前へ鳴り進む)
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そして、真珠湾が来た! 大戦が始まった!
国中わき立った!
今、あの時のことを振りかえって日本人の誰もかれもが
くやんでも、くやみたりない悔恨と否定と、
国民に知らせずにそれをした軍部への怨みを言う
たしかに、それはそうだろう
しかし事実そのものを振りかえって見よう
今こうなった気持から事実までをも曲げて
自分で自分にウソをつくほど。恥知らずにはなるまい。

そうだったのだ!
大きな恐ろしい決定の前で
国民の大部分が「ヤルゾ」と思った
こうなったら、しかたがない
負けるわけには行かないと思った
これに負けたら日本は亡びる
亡びたくなければ勝つ以外にないと思った
誰にしろ、心から、残りなく喜こび勇んで
開戦万歳を叫んだ人は居なかったが
それぞれの心々に憂い恐れためらいながら
しかしそれらすべてを引っくるめて投げ捨てて
前へ踏み出すほかに途はない
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